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112 ふるさと納税のハテナ The doubts about Furusato Nozei

こんにちは、鳥羽市地域おこし協力隊の五十嵐ちひろです。ニュースで、鳥羽市のふるさと納税の収入が2億円強減った、と報じられたのをご存知ですか?知っていた人も知らなかった人も、そもそも2億円以上入っていたんだ、とびっくりされたことでしょう。そこにも言及しつつ、このふるさと納税について思うことを書いていきます。

ふるさと納税とはなんぞや

ふるさと納税についてご存じない人に簡単に説明しましょう。自分の出身地や思い入れのある地域の事業を金銭的に応援できる制度で、寄付をすると所得税・住民税が控除されるというもの。納税とは言っていますが、実際は「寄付」です。そして多くの自治体では寄付のお礼に「返礼品」として地場産品などを寄付者に送っています。寄付可能金額は人によって違いますが、最大で5万円寄付できます。その場合5万円まるっと寄付した自治体の収入となり、寄付者は所得税・住民税から4万8千円が控除されます。つまり自己負担額は2千円。その為、2千円でブランド肉や、果物、工芸品などの特産品を手に入れることができるお得な制度!と言われています。もちろん寄付を受ける自治体も収入が得られてありがたい制度です。この説明で分からなければググってもらえば、図解の分かりやすいページがいくつも見つかると思います。

 

さて、以前関係人口についての話をしたときに、移住促進はふるさと納税と同じ道を辿っている、との意見を述べました。もう既にお気づきのことと思いますが、わたしはふるさと納税の制度に疑問を持っています。

 

なぜかと言うと、この制度、寄付者にも寄付を受けた自治体にもお得な制度ですが、要は寄付者が住民票を置く自治体が5万円の寄付金のうち4万8千円を肩代わりしているようなもんなんですよ。えっ、ひどくね?

 

「魅力はあるけれど、税収の少ない地域を応援するための制度だからそれでいいんだ」と言えなくもないけど、人口は多いが地場産品と言えるものが無い都市部の自治体には踏んだり蹴ったりですよね。実際、東京23区ではふるさと納税による減収が激しいみたいですし、それを補填できるような地方交付税交付金ももらえない、というかなり厳しい状況です。

昨年の記事ですが、こちらが参考になると思います。⇒ふるさと納税“損している自治体”ランキング 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

ふるさと納税はやらなきゃ「損」なのか

そしてわたしが最も納得いかなかったふるさと納税に関する意見が、保険の世話をしてもらったファイナンシャルプランナーさんの言葉なんですけど「ふるさと納税はしなきゃ損ですよ。所得税・住民税払っても何もいいこと無いですけど、ふるさと納税すれば返礼品が貰えますから」というものです。いやいやいやいや。所得税・住民税払っても何もいいことない、ってなんですか?自治体が住民から集めている税金というのは、行政サービスの為に使われます。例えば公民館、市営の博物館、交通機関、学校、保育所、診療所、その他もろもろの市民のためのサービスです。それらを運営するための資金が減るというのはやばくないですか?新設できるはずだった保育所が開けないとか、増員できるはずだった看護師が雇えないとか、そういう事態になったっておかしくないのでは?所得税・住民税払って得することは無くても、払わずに損することは十分にあるんじゃないか、とわたしは考えています。(もちろん国から補助する制度もあるわけですが)

返礼品競争がし烈

さらに度々問題となっているのが「返礼品競争」です。その名のごとく、より寄付者がお得感を得られる物を提示し、いかに多くの寄付を集めるのか、というところでし烈な争いが繰り広げられています。本来返礼品なんて出さなければ寄付金まるまる収入になるのに、それを何割か削ってでもより多くの寄付者を引き付ける為に寄付額の5割の金額の品を返礼品とする自治体も出てくる始末。あとは寄付を多く募るために、コンサルや外部委託団体や、広告に結構なお金を使っていたりとかね。

 

ここで鳥羽市の寄付金減の話題に戻りますが、元々返礼品として人気があった真珠製品は資産性が高いことが問題視され、廃止されることになりました。例えば5万円寄付して1万5千円の真珠製品が返礼品として送られてきたとします。自己負担金は2千円ですので、これを質屋でお金に替えれば、1万3千円の得になるわけです。

真珠のネックレス
写真はイメージです

ただ鳥羽市のように土地との関連の深い真珠を出しているのはお行儀の良い方で、全く関係の無い家電や金券やビールなどであからさまに寄付者を「釣って」いる例も多く、さすがにこれはまずいと言うわけで、総務省は「還元率(寄付金に対する返礼品の金額の割合)を3割以下にとどめるように」とか「資産性(換金性)の高いものは送らないように」とか通知を出していますが、拘束力が弱いので無視する自治体も多く、はっきり言って正直者が馬鹿を見る状況です。

返礼品って必要?

返礼品には地場産品のPRという役割もあります。「わが町の特産品である○○の味を知ってもらい、今後の購買につながれば、地元経済も潤う」なんてことは誰でも考え付く言い訳ですが、考えてみてください。今回ふるさと納税で2千円で手に入ったものをわざわざ1万5千円出して買うでしょうか?返礼品を送ることで、地場産品の購買者が劇的に増えるとは考え難いです。また、もし返礼品という制度やふるさと納税自体が無くなってしまったら、むしろふるさと納税特需でいつも以上に多く生産し納品していた生産者は非常に困ることになりかねません。

 

本来なら寄付への感謝の気持ちを込めたお礼のはずの返礼品。初めてふるさと納税について知ったときは、なんて良い制度だろう!と思いました。だけど今ではその返礼品のせいで泥仕合を繰り広げる各自治体。

アワビ
鳥羽市の返礼品にはアワビもある(写真はイメージです)

ふるさと納税の本来の趣旨から大きく外れたいまの状況に嫌気がさして、この返礼品競争から降りた自治体もあります。わたしの印象に残っているのは、埼玉県所沢市です。返礼品を送ることを止めたとき、所沢市長は返礼品競争で勝ち残れる地場産品を多く持っているが、これらを競争に使うこと自体が間違っている、とし、昨年から返礼品を廃止しています。

 

返礼品を送らない自治体では、企画や事業に賛同してくれる人が本来の趣旨に沿って寄付をしています。代表的な例が、東京都文京区の子ども宅食の事業です。格差の見えにくい社会の中で子どもの貧困は実は深刻な問題です。こども宅食はそんな子どもたちに手を差し伸べるプロジェクトで、これを応援したい人たちから多くのふるさと納税が集まり、当初目標としていた2000万を大幅に上回る8225万円の寄付を集めました。そこに共感があれば、見返りなんて無くても人はお金を払うんですよね。

終わりに

散々文句は言いましたが、ふるさと納税の理念自体は素晴らしいものであり、成功している事例はあります。しかし現状には疑問を抱いていますので、わたし自身は利用していません。実態がその理想に近づくことを願います。また、このブログはみなさんのふるさと納税を止める趣旨のものではありません。個人的な考えを述べたまでですので、ご理解ください。